Column · 運用ガイド

高ストレス者から面談の申出がない。
会社は何をすべきか

公開日: 2026年8月20日 監修: 産業保健師(VITAL SYNC) 読了目安: 約7分

ストレスチェックを実施して、高ストレス者が10人いた。けれど、医師の面接指導を申し出たのは0人だった——産業保健の現場では、まったく珍しくない光景です。
「申出がないなら、会社は何もしなくていいのか」「放っておいて、もし何かあったら責任を問われるのではないか」。この記事では、法令上のルールを整理したうえで、申出が来ない理由申出を増やす具体的な工夫、そしてそれでも申出がない場合に会社ができることを順に解説します。

前提:面接指導は「申出があってはじめて」義務になる

まず、法令上の建て付けを正確に押さえます。

ストレスチェックで高ストレス者と判定され、実施者(医師・保健師等)が面接指導を受ける必要があると認めた労働者について、本人から申出があった場合に、事業者は医師による面接指導を行う義務があります(労働安全衛生法第66条の10第3項)。

裏を返すと、申出がなければ、面接指導を実施する法的な義務は生じません

申出の目安結果の通知後、おおむね1か月以内
面接指導の実施申出から、おおむね1か月以内
医師からの意見聴取面接指導後、おおむね1か月以内
記録の保存面接指導の結果の記録は5年間
POINT

会社は、誰が高ストレス者なのかを知りません。
ストレスチェックの個人結果は実施者から本人へ直接通知され、本人の同意がない限り事業者には提供されません。つまり会社側には「Aさんが高ストレスだから声をかけよう」という動き方が、そもそもできない構造になっています。

この構造を理解していないと、次の章から先が腑に落ちません。

なぜ申出が来ないのか——4つの理由

現場で聞く理由は、だいたい次の4つに集約されます。

  1. 人事評価や異動で不利になるのが怖い
    最も多い理由です。「メンタルに問題があると思われる」「昇進に響く」という不安から、申出をためらいます。法律上は申出を理由とした不利益取扱いは禁止されていますが、そのことが本人に伝わっていないケースがほとんどです。
  2. 上司や同僚に知られたくない
    申込の窓口が直属の上司や人事だと、それだけで心理的なハードルが跳ね上がります。「誰に知られるのか」が不透明なまま申し出る人は、ほとんどいません。
  3. 面接指導が何をするものか分からない
    「病院に行かされる」「診断名をつけられる」といった誤解があります。実際には、医師が働き方や心身の状況を確認し、必要に応じて働き方の調整を助言する場ですが、この説明が届いていません。
  4. 単純に、忙しい
    高ストレス者ほど業務が過密です。「申し出たら平日に時間を取られる」となれば、後回しにされて自然消滅します。

申出を増やす5つの実務ポイント

ここからが本題です。制度を変えなくても、運用の工夫で申出率は上がります。

① 勧奨は「実施者」から行う

会社は誰が高ストレス者か分かりませんが、実施者(医師・保健師等)は分かっています。そこで、実施者から本人へ「面接指導を申し出ませんか」と勧奨する運用をとります。厚生労働省のマニュアルでも、実施者による申出の勧奨が想定されています。

外部にストレスチェックを委託している場合は、契約に「申出勧奨まで含むか」を必ず確認してください。ここが抜けていると、結果を通知して終わり、になります。

② 通知文に「何が会社に伝わるのか」を明記する

本人が最も知りたいのは、自分の情報がどこまで会社に渡るかです。通知文に次を明記するだけで、申出への抵抗は大きく下がります。

③ 不利益取扱いの禁止を、会社の言葉で伝える

「申出をしたこと、面接指導を受けたことを理由に、解雇・雇止め・不当な配置転換・降格などの不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています」——この一文を、通知文または社内アナウンスに入れてください。法令にあるだけでは、本人には届きません。

④ 申込のハードルを物理的に下げる

「上司に紙を提出する」運用のまま申出率を嘆いても、原因はそこにあります。

⑤ 期限を切って、リマインドする

「いつでもどうぞ」は「いつまでもしない」と同義です。「◯月◯日までにお申し出ください」と期限を示し、期限前に一度リマインドを送ります。

それでも申出がない場合、会社にできること

申出がない以上、面接指導を強制することはできません。しかし「何もしない」と「できることをやる」の間には、大きな差があります。

① 相談の受け皿を用意しておく

法定の面接指導とは別に、保健師や心理職への相談窓口を用意します。「医師の面接指導」より心理的ハードルが低く、実際にはこちらから相談が入ることが少なくありません。相談の中で必要と判断されれば、面接指導につなぐこともできます。

② 集団分析を使って、職場そのものを変える

高ストレス者への個別対応には限界があります。一方、集団分析(部署別の傾向)は個人の同意なしに活用でき、しかも本人が動かなくても効果が出ます。特定の部署に高ストレスが偏っているなら、業務量や人員配置を見直すほうが、個別面談より本質的な対策になることも多いのです。

③ 「やるべきことをやった記録」を残す

会社には、労働者の心身の健康に配慮する義務(安全配慮義務)があります。申出がなかったこと自体は違法ではありませんが、万一の際に「会社は何をしたのか」が問われる場面はあり得ます。

これらを残しておくことが、結果的に会社と従業員の双方を守ります。

面接指導を実施したあとの流れ

申出があり、面接指導を実施した場合の、その後の流れも確認しておきましょう。

  1. 医師からの意見聴取(面接指導後おおむね1か月以内)
  2. 就業上の措置の検討・実施 — 労働時間の短縮、深夜業の回数の減少、就業場所の変更、作業の転換など
  3. 記録の作成・保存(5年間)

就業上の措置を検討する際は、本人の意向を確認せずに一方的に進めないことが重要です。良かれと思った配置転換が、本人にとっては不利益と受け取られることがあります。

よくある質問

高ストレス者に、会社から直接声をかけてもいいですか?
会社は本人の同意がない限り、誰が高ストレス者かを知り得ません。したがって、会社から特定の個人に声をかけること自体ができない仕組みです。申出の勧奨は実施者(医師・保健師等)から行うのが原則です。
面接指導を受けるよう、業務命令できますか?
できません。面接指導は本人の申出にもとづくものであり、強制はできません。申出しやすい環境を整えることが、会社にできる対応です。
申出がないまま何も起きなければ、問題ありませんか?
面接指導を実施しなかったこと自体が直ちに違法となるわけではありません。ただし、会社には安全配慮義務があるため、申出勧奨・相談窓口の設置・職場環境改善といった取り組みと、その記録を残しておくことをおすすめします。
高ストレス者が多い部署があります。どう対応すべきですか?
集団分析の結果を衛生委員会等で共有し、業務量・人員配置・労働時間などの観点から改善を検討してください。個人へのアプローチより、職場側の要因に手を入れるほうが効果が大きい場合が多くあります。

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産業保健師(VITAL SYNC)

大学病院看護師・行政保健師を経て、東証プライム上場企業の産業保健師として健康経営・産業保健マネジメントを主導した実務家が監修しています。健康経営エキスパートアドバイザー。

出典・参考: 労働安全衛生法第66条の10/労働安全衛生規則第52条の15〜第52条の18/厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」/厚生労働省「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」。本記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。個別の運用は所轄の労働基準監督署・産業医等にご確認ください。

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